梶原塾長の「みんなでいっぱい恥をかこうぜ!」というコピーがとても気に入っています。
アナウンサーというイキモノは、他の仕事をしていればおそらくかかずに済んだ恥を、たくさん重ねて生きています。
おかげで、つらの皮は厚くなる一方です。
きょうは、わたしの恥かきはじめのお話を。
ラジオ・テレビ兼営の地方局で、わたしはアナウンサーとしてスタートしました。
研修もそこそこに、わたしのデビューは「盗難車情報」に決まりました。
2分半ほどで盗難にあった車の車種やナンバーを読み上げて、「みかけた方はお近くの警察署までご連絡を。」と呼びかけます。
地域に根差した地方局ならではですね。
ところで、盗難車は1日に10件ある日もあれば、5件だけの日もあります。
そこをうまいこと2分半に調整して読むようにと、言い渡されていました。
ブースの中で緊張しながら、盗難車の情報を精一杯丁寧に読み進めていきます。
さあこれが、最後の盗難車だなと思ったところで、残り時間を確認しました。
「あと1分も残ってる。」 そこでわたしは先輩のアドバイスを思い出します。
「もしも時間が余ったら、もういちど初めから繰り返せばいいからね」
先輩に感謝しながら、わたしは最初から繰り返します。
2度目の最後の車のところまで進んで時計を見ると、まだ14秒も残っています。
それでもわたしは慌てません。
「さらに余ったら、自分の名前と『盗難車情報をお伝えしました。』でしめれば大丈夫」
よしよし、とわたしはその通りにしました。
「以上、盗難車情報。土井がお伝えしました」 言い切って時計を見れば、まだ10秒もあるではありませんか。
ここでとうとうわたしはあせり始めました。
「え。もう言うことはなにもありませんがーーーー!!!」 心の中で絶叫します。
このままカフスイッチを下げれば放送事故になってしまうかもしれない・・・。
わたしは決意しました。
自分の名前を繰り返して時間を埋めることを。
結局そのあと4回もフルネームで名乗って放送を終え「おまえはそんなに名前を売りたいのか」と半笑いで先輩たちに迎えられました。
そういえば、わたしの研修を担当した滑舌キレキレの先輩アナはこう言っていました。
「あとは、恥かいて覚えなさーい」と。
「恥をかいても、命までとられるわけじゃないし。」という境地にまで達するのは、もうすこし後のことです。
「デビューで4回も名乗ってしばらくしたころ、夏のラジオマラソ

ツタバナ講師。元新潟放送アナウンサー、フリーアナウンサー、話し方講師、声のアンチエイジング研究家。ホテル業会社員からアナウンサーに転身。「話し方は人生を変える」を実感。「声や話し方はトレーニングで十分に進化する」ことを、レッスンを通して、多くの受講者に伝える。得意分野はラジオ番組進行、インタビュー、司会、声のアンチエイジング。