ラジオ局に勤務していた当時、会社のデスクの電話が「リン」となった途端に足が震える、という後輩がいました。
今は、スマホを全社員に貸与して机の上に表用の電話機を置かない会社も増えているようですが、かつて社内電話は「新人を鍛える最強のツール??」と言われていました。
どこの誰からの電話かも知らぬまま、社名を名乗り、相手先の身分や名前を正確に聴き取りメモし、用件を伺い、社内の適切な人物につなぐ・・・これだけでも相当なコミュニケーション能力を必要としました。
「どちら様ですか?」と名前を問うと怒り出す「偉い人」とか、「〇ちゃんそこに居る?」と上司のあだ名で話し始める放送作家とか、話し始めからクレームを言い立てるリスナーからの電話なども入ってきます。
そりゃあ震えますよね。
しかしそんな修羅場を乗り越えてこそ、一人前、というのが当時の新人教育でした。
電話の「リン」という音に震えていた後輩も、その後立派なアナウンサーになりました。
不安や恐怖を取り除くセラピーに「暴露療法」というのがあります。
学問的な説明は省きますが、乱暴に言えば、不安や恐怖を逃げるばかりでは無く、震えながらも電話に出る!恐怖に身をさらす(暴露させる)回数を増やす。
そのうち「いつも失敗するというわけでも無さそうだ」と実感できれば、震えや口ごもりも徐々に減っていく。
早い話が「慣れ」ですね。
「自分の身を不安や恐怖にさらして慣れろ」とは何とも残酷に聞こえるかも知れませんが、こういう「古典的な対応」が意外に効果を発揮します。
人前で上がって舌が回らない。
話がまとまらない。
気の利いたことが言えない。
できない、言えない回数を増やしていけば、やがては「できる」と信じることがオススメです。
実はこれ、私がやってきた方法でもあります。
あがり症で、口下手で、不器用な私が古希を過ぎてもアナウンサーとして現役で居られるのは、人よりたくさん恥をかいたおかげではないかと感じています。
行き着く先は、ツタバナのキャッチフレーズ「みんなでいっぱい恥をかこうぜ!!」ですね。

元文化放送アナウンサー。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学し心理学修士号を取得。精神科クリニックに勤務し、シニア産業カウンセラーとしても活動。英語・北京語も堪能。アナウンサーとカウンセラー両方の経験を元に梶原メソッドを考案。オンライン話し方教室「ツタバナ」を始め、自ら塾長を務める。