人前での話し・あがり・過緊張
ツタバナとは「伝わる話し方」を略して言うことばですが、「話し方」というと、伝わる、伝わらないという前に「上がる、緊張する」が心配になってくる、という方が、日本人の6〜7割、つまり「上がる方が多数派=普通」と言うことになります。
私もかつて、6〜7割組の一人で、「上がり場面に身を晒すアナウンサー」になろうとしたのも、今から考えれば、いわゆる「暴露療法」だったのかも知れません。
暴露療法とは、あがり、緊張などを含む、不安障害治療に使われる処方で、「上がるんじゃないか」「緊張で失敗するんじゃないか」という「予知不安」に脅え、震える、その前に、自らを「あがる状況」に「晒す」ことを繰り返し、徐々に不安に対する耐性(慣れ)を高め、不安を低めて行く「行動療法」を言います。
不安、緊張、あがりに、心も体も、慣れっこになっちまえ、ということですね。
乱暴に聞こえますが、この「暴露療法」が今のところ薬物を使わずにあがり、緊張など「不安」を克服する一番効果的な手法です。
不安場面に何度か晒され、原因となる刺激に徐々に、段階的に触れることにより、不安や緊張が低まる方向に向かう心理的なメカニズムを活用する治療法です。
いきなり後ろから「ワーッ!」と脅かされれば、心臓が止まりそうに驚きますが、二度三度と繰り返されれば、神経もほどよく麻痺して、さほど驚かなくなるのに、似ていなくもありません。
実際に誰かに驚かせてもらうのではなく、頭の中で「あがりの状態」「緊張する場面」を何度も何度も飽きるほどイメージしておくと、「あがり疲れ」して実際の場面ではあがりが低まる。
そんなメンタルリハーサルを実行しているプロのパフォーマーは少なくありません。
まあ、どのみち、加齢が進むにつれて、感情が鈍ってくれば、あがりも過緊張も細っていきます。
これを私は勝手に「加齢法」と呼んでいます。
年をとるのは、悪いことばかりではありません。

元文化放送アナウンサー。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学し心理学修士号を取得。精神科クリニックに勤務し、シニア産業カウンセラーとしても活動。英語・北京語も堪能。アナウンサーとカウンセラー両方の経験を元に梶原メソッドを考案。オンライン話し方教室「ツタバナ」を始め、自ら塾長を務める。