梶原しげるです。
二週間ほど前に文化庁から発表された、毎年恒例、「国語に関する世論調査」の最新版には「コロナ禍」ならではの調査項目がいくつかあります。
問いの二番目に登場したのが「マスクを付けると変わることがあると思う点」との「ユニークな調査」です。
コロナ禍で会話の多くがマスクで覆われた口から語られることが普通になった今日、実に興味深い問いかけです。
マスクをかけることが日常となった私たちの話し方が、どんな点で変わったかの調査結果を見てみましょう。
もっとも大きな変化は「声の大きさに気をつけるようになった」でした。
マスクをかけない会話では、声が、か細く、聞こえにくくても、口の動きや顔全体の表情で、何を言いたいのか「察すること」ができました。
ところが、マスクでは顔の表情から相手の伝えようとする感情を読み取ることが極めて難しくなってきたのです。
小声で、ボソボソ、といわれても、相手にはまるで通じないというわけです。
その結果、あまりマスクを付けることのなかったおよそ2年ほど前のようなボリュームでは、意図するところが伝わらないという事態が発生している事を調査は示唆しています。
二番目に多かった「変化」は「ハッキリした発音で話すようになった」です。
マスクをかけない時代は、ことさらに口を大きく開けよう、などと思わなくとも、滑舌良く話そうとしなくたって、それなりに伝わったものでした。
ところが今のマスク時代は、特に、「アイウエオの母音」はひときわメリハリ良く、口を大きく開けて発音しないと、相手に上手く伝わりません。
最近聞き返されることが増えたと嘆いている方は、マスクの下の口をもっと大きく開けたり閉じたりしないと、相手に聞き取ってもらえなくなっているというわけです。
三番目は「相手との距離に気をつけるようになった」です。
マスク越しの声の届きは思った以上に酷いものです。
不織布はウイルスを遮断してくれますが、同時に音声の一部を遮断するのです。
マスク越しの会話は実に厄介です。
相手の「非言語(身振り手振り、わずかに見える目元回りの表情)」を注視して、相手が意図するところを必死に「解読」しなければなりません。
身振り手振りはこれまで以上に大切になり、私たち日本人は全員、アメリカ人を模範にして、オーバーアクションに相勤めなければならない状況にもあります。
互いの話し始めのタイミングが上手く合わず、言葉と言葉がぶつかったり、意味なく間が空いたりすることもあり、気まずい空気が流れたりもします。
「マスクをしての会話」は思った以上に「伝わらない」と覚悟してかからないと行けないと事態であると、国語世論調査が注意を呼びかけているのかも知れませんね。

元文化放送アナウンサー。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学し心理学修士号を取得。精神科クリニックに勤務し、シニア産業カウンセラーとしても活動。英語・北京語も堪能。アナウンサーとカウンセラー両方の経験を元に梶原メソッドを考案。オンライン話し方教室「ツタバナ」を始め、自ら塾長を務める。